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Tea in High Time

伝統の生産

                         Tea in High Time
                   失われた花の香り―萎縮をめぐる冒険―

象牙色の磁器にもられた液体琥珀こはくの中に、その道の心得ある人は、孔子こうしの心よき沈黙、老子ろうしの奇警、釈迦牟尼しゃかむにの天上の香にさえ触れることができる。
                                                                    茶の本(岩波文庫) 岡倉覚三(著) 村岡博(訳)

花の香りのするお茶を飲んだことがありますか?
口に含んで瞳を閉じれば瞼の裏に野原の浮かぶ、そんなお茶です。それは半世紀ほど前に「やぶきた」と呼ばれる茶葉が静岡で芽吹き、親しんで飲まれるようになっていったなかに、ありました。

地元茶業家曰く〜
当時、茶葉の刈取りはすべて手摘みで行われていました。新茶の時期は人手が足りず、刈り取った茶葉を一日の中で蒸して揉むことができないことが多々ありました。その結果、一晩寝かされた茶葉は、自重と気温で発酵してしまったそうです。手摘みの一番茶です。そのまま捨てるのももったいないと、蒸し、揉んでから火を入れると、なんとも甘露で、まるで「花」のようなよい香りのする大変おいしいお茶ができたそうです。

それからというもの、茶葉を一晩寝かせて軽く発酵させてから仕上げる手法が確立されました。
この手法を「萎縮(いちょう)」と呼びます。
萎縮はとても手間と経験が必要とされる手法です。
まず、均一に茶葉を発酵させるためには一定の厚さで生茶を広げる必要があり、広い場所を必要とします。発酵の時間も、気温や湿度によってまちまちなので、その具合を見極めなければなりません。短すぎれば花の香りは失せますし、長すぎれば香りが行き過ぎ、熟れた果実のようになってしまいます。
では、実際に見ていただきましょう。

まず採れたての生茶です。


次に萎縮させたもの。


いかがでしょうか?見比べてみれば差は歴然としていますが、発酵というイメージよりは、しんなりしているだけにも見えます。
しかし、この状態が職人の手による最適な萎縮の状態なのです。

ここに写真をアップしていることでお判りでしょうが、我々は「花の香りのするお茶」を再現すべく、萎縮を試みました。
先にも述べたとおり、萎縮は大変な手間と技術を必要とします。
静岡という古くからの茶産地に位置し、伝統的な茶製法を受け継いだ生産家の方々の協力があって初めてできたことです。
現役の生産家の方でも萎縮の技術を受け継いでいる方は、少なくなってしまいました。それは、対費用効果と機械化による生産工程の効率化――つまりは時代の流れなのですが、幸運なことに、我々はまだ、あの花の香りを失ったわけではないのです。

時の流れをさかのぼって、もう一度あの花の香りを。

そんな無理なお願いを聞いていただいたのは、静岡牧之原市相良の精揉機屋(生葉を摘み、蒸し、揉む工程を行う業者)の山長さんです。



山長さんは古くから精揉機屋を営む「お茶の達人」です。なんでも、先代は名人と呼ばれるほどの茶揉みの匠で、当代はその技術を継承した職人なのです。
当代の後ろに広がっている茶畑の葉を萎縮していただきました。

さて、では萎縮させた茶葉の加工工程を見ていきましょう。
まず、摘採された茶葉はサイロと呼ばれる保管場所に置かれ、ここで萎縮――一晩寝かせます。
そして、萎縮した茶葉を


この蒸し器で蒸します。
そうすると、


このようにまるで茹でたかのような柔らかい茶葉になります。
これからこの茶葉の水分を飛ばしつつ、揉んでいく工程になります。

はじめは、「葉打ち」と呼ばれる工程で、


写真のような大きなフォークがついたドラムの中に蒸した葉を入れかき混ぜます。ドラム内には熱風が送り込まれ、水分を飛ばします。
葉打ち後の茶葉はこのようになります。

まだ、水分が残っていますね。

そこで、今度は「荒揉」という工程に入ります。

葉打機と同じように、ドラムの中に撹拌用のフォークがあります。それに加えて、手前には大きなヘラのようなものがついています。この金属製のヘラが茶葉を押さえつけ、水分を抜くのです。

荒揉を終えた後の茶葉です。大分水分が抜けて、濃い緑色が目立つようになりました。ですが、ところどころに薄い緑色の茎が目立ちます。このままだと均等に力をかけて茶を揉む事ができません。

そこで、次に揉捻という工程に入ります。

この茶葉を磨っている機械の中には、金属製の分銅が入っていて遠心力と共に茶葉に力を加えます。これで茎を磨り潰し、葉の部分と同じ力で揉むことができるのです。

これが揉捻後の茶葉です。大分茎の部分がほぐれ、全体の色が同じになりました。

さて、揉捻によって葉と茎に均等に力をかけることができるようになったら、中揉という工程に入ります。

荒揉機とよく似た内部ですが、ヘラの部分により強く力がかかるよう、ばねが協力になっています。全体に均等に力がかかるようになったので、しっかりと葉を押さえつけることができます。

中揉後の茶葉です。大分水分が抜け、店頭の茶葉らしくなってきました。
この茶葉を乾燥させまると、このようになります。


次はいよいよ最後の工程、精揉に入ります。
精揉機と呼ばれる機械で、丁寧に乾燥させた茶葉を揉んでいきます。

中央の錘付の振子が茶葉を磨り、周囲にこぼれた茶葉をハケが拾い上げます。これを何度も繰り返し、丹念に茶葉を揉んでいくのです。

この工程を経て、萎縮茶葉の出来上がりです。

きれいな緑色ですね。
近づいて嗅ぐと、仄かに花の香りが漂う、気品あふれるお茶です。
この茶葉に、弊社の火入師が火を入れ香りと甘みを引き立たせ、合組師がお客様のニーズに合った合組をします。

このようにして出来上がった萎縮茶は、技術の進歩、機械化、省力化といった効率を追求する社会の流れの中で忘れ去られそうになっていた花です。
子供の時に駆け回った山野、ランドセルを背負った帰り道の川辺、あの子と手をつないで歩いた草原……そこに咲いていた花の香りをあなたに。

忘れていた記憶、過ぎ去った日々の中にある風景と邂逅する瞬間、そういった意味を込めて、このお茶に名前を付けました。
"High Time" とは、シェイクスピアの"The Comedy of Errors"から借用したフレーズで「機は熟した」といった意味です。
満を持してこの商品を提供するという意気込みと共に、懐かしい風景の中に漂う花の香りを感じる瞬間をイメージして、"Tea in High Time"としました。

このお茶は、あなたを懐かしい「あの日」に連れて行ってくれます。